【要約/レビュー】『サイレント黙認』

2024年11月12日

書籍タイトル	サイレント黙認
著者	神津凛子
出版社	講談社
発売日	2021年7月14日

どんな人におすすめの本か

サスペンスや心理描写が好きな人、家庭環境が人格に及ぼす影響について興味のある人におすすめです。

この本の要約

『サイレント黙認』は、建築会社に勤める矢羽田勝人とコーヒーショップで働く砥石華の物語。勝人の異常な家庭環境と、見て見ぬふりの「黙認」が引き起こす悲劇を描いています。

第1章: 勝人

物語は矢羽田勝人の視点で始まります。建築会社に勤務する彼は、普段から人付き合いが苦手で、どこか影のある人物として描かれています。ある日、コーヒーショップで働く砥石華と偶然出会い、心惹かれるようになります。しかし、この恋愛に対する彼の想いは純粋なものとは言えず、やがて執着や依存に変わっていく過程が描かれます。

第2章: 星也

砥石華の弟、砥石星也の視点で語られます。星也は華に深い愛情を持ち、姉を守ろうとする心の強い人物です。華が勝人と付き合い始めたことを知ると、姉の変化に違和感を覚え、親友の葉月とともに勝人について調査を始めます。過去に異様な家庭環境で育ったという勝人の秘密に気づき始め、彼が抱える危うい一面に疑いを深めていきます。

第3章: 儀式

勝人の過去がさらに明らかにされ、彼の家庭で行われていた異様な「儀式」について描かれます。この儀式は、彼の家族によって強要されたものであり、彼の精神に深い傷を刻み込みました。親から無理強いされた習慣や価値観が、いかに彼の人格をねじ曲げたのかが詳細に語られます。この章では、彼がなぜ異常な思考や行動を取るようになったのか、その理由が少しずつ見えてきます

第4章: 華

この章では砥石華の視点で物語が進みます。最初は勝人との恋愛を純粋に楽しんでいた華でしたが、次第に彼の異常性や執着に気づき、彼との関係に不安を感じるようになります。また、華自身も幼少期に抱えた家族との葛藤が描かれ、勝人との関係を通してそれを乗り越えようとする姿が描写されます。しかし、彼の危険な一面を知った華が取る行動は、物語の緊張感をさらに高めていきます。

第5章: 楽園

勝人が理想としていた「楽園」が明らかになります。これは彼が子供の頃から夢見てきた、自分だけの「理想郷」であり、現実とはかけ離れた世界観に基づいています。彼はこの楽園に華を誘い入れようとしますが、現実と理想のギャップに次第に歪みが生じていきます。勝人の狂気がエスカレートするこの章では、彼の「楽園」が実現不可能であることが明らかになり、物語はより深刻な方向へと進んでいきます。

第6章: 夏の日

この章では物語の緊張が最高潮に達します。華、星也、そして勝人の思惑がぶつかり合い、緊迫した状況が続きます。華と星也が勝人の真の姿に気づき、彼と距離を置こうと試みる中、勝人は華を手放すことができずに追い詰められていきます。華と星也の決断が勝人をさらに狂気へと追いやり、悲劇の幕開けが感じられるような展開です。

第7章: 黙認

ここでは、「見て見ぬふり」がもたらす恐ろしい結果が描かれます。勝人の狂気的な行動に気づきながらも、周囲の人々がそれを見過ごし、黙認してしまった結果が次々と悲劇を引き起こしていきます。この章で描かれる黙認の連鎖が、最終的に勝人を破滅へと導き、周りの人々にも大きな影響を及ぼします。読者に「黙認」がもたらす恐ろしさや責任について考えさせる、非常に重い内容となっています。