書籍タイトル
京都―未完の産業都市のゆくえ―
著者
有賀 健
出版社
新潮社
発売日
2023年9月19日
この本の要約
『京都―未完の産業都市のゆくえ』では、京都が観光都市として栄える一方で、産業都市として発展しきれない理由やその構造的背景を丹念に分析しています。京都の中心地に残る伝統的な町衆の社会構造や、成長してきた工業部門の多くが郊外部に展開してきた状況など、歴史的かつデータに基づくアプローチで論じられています。
序章
京都の観光業と産業の現状を簡潔に紹介し、著者の問題意識を提示。
第1章
戦後の京都の産業と町衆の役割を解説。
町屋が主導する西陣織などの伝統産業がかつては産業の中心を占めたことが述べられています。
第2章
高度成長期以降の企業立地について分析。
京セラや村田製作所など、伝統に依らず郊外部に立地した企業群が産業を牽引した事例を挙げ、産業と市中心部との乖離を指摘。
第3章
観光業の急成長が市中心部に与えた影響を考察。
特に祇園周辺の変化が詳細に描かれており、地元民の生活空間の圧迫について触れられています。
終章
京都が観光都市と産業都市の両立を果たすための提案。
市北部までの交通インフラの整備や景観規制の見直しを促している点が特徴です。
全体を通して
本書が提示する「未完の産業都市」という視点は、京都がもつ特異性や変遷を経済的・社会的な側面から再解釈するものです。観光と産業のバランスを欠いた京都の都市計画の現状は、京都の特色である「町衆」文化と、近代的な産業構造が相互に影響し合い、複雑な発展を辿ってきたことを象徴しています。
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本書の評価
評価: ★★★★☆4.5/5
レビュー
京都の現代社会について、伝統と観光産業が交差する視点で新しい気づきが得られた。
観光都市と産業都市という二面性をデータに基づいて鋭く分析した一冊。
京都の観光による恩恵と弊害のバランスについて考えさせられる内容。
地方都市が抱える課題と都市計画の盲点を理解するうえで非常に参考になる。
京都の未来について、単なる観光都市ではない視点を学べた。
まとめ
『京都―未完の産業都市のゆくえ』は、京都の都市発展に対する鋭い考察と、京都独自の構造的課題を浮き彫りにする一冊です。観光都市としての成功が、産業都市としての成長を阻んでいるという視点は、現代の観光都市が抱える課題を知る上でも有用です。伝統と近代化の狭間で苦悩する京都の姿は、他の都市の持続可能な発展を考える際の参考にもなります。