【要約/レビュー】『推し、燃ゆ』

2024年11月27日

書籍タイトル	推し、燃ゆ
著者	宇佐見りん
出版社	河出書房新社
発売日	2023年7月25日

どんな人におすすめの本か

『推し、燃ゆ』は、推し活を楽しむ人やその文化に関心がある人、また現代の若者が抱える孤独や不安に共感を持つ人におすすめです。特に「推し」という存在が個人のアイデンティティや生きる支えとなる姿に興味を持つ方に響く内容です。さらに、感情を繊細に描写した文章や、深いテーマを楽しみたい読書家にぴったりの一冊です。

この本の要約

『推し、燃ゆ』は、21歳の宇佐見りんが描く、若者文化とアイデンティティをテーマにした現代小説です。主人公・あかりは、アイドルの上野真幸を「推す」ことに生きがいを感じています。しかし、真幸がファンを殴ったというスキャンダルが発覚し、彼の炎上が始まります。あかりは推し活を通じて自身の居場所を見つけていましたが、その炎上事件をきっかけに、自分自身の存在意義や社会との関係性を見つめ直すようになります。推しに救われた人々が抱える葛藤や孤独を鋭く描きつつ、彼らの内面に寄り添うストーリーが展開されます。

第1章: 推しの炎上

物語は、あかりが推しであるアイドル・上野真幸の炎上ニュースを知るところから始まります。SNSを通じて「真幸がファンを殴った」という衝撃的な情報を得たあかりは、信じられない思いでネットを見続けます。推しが完璧である必要はないと自分に言い聞かせるものの、心の中では動揺が広がり、次第に彼女の生活にも影響が出始めます。

第2章: 学校での反応

翌朝、学校では友人やクラスメートとの会話の中で、あかりの推しの炎上についての話題が飛び交います。友人のなるみは、あかりを気遣いながらも状況を聞いてきますが、他の生徒たちの何気ない一言や無遠慮な言葉に、あかりは心を痛めます。この章では、学校生活の中であかりがどれだけ孤独を感じているかが強調されます。

第3章: 家庭での孤立

家庭では母親とのぎくしゃくした関係が描かれます。母親はあかりの推し活に理解を示さず、会話もすれ違いがちです。家庭の中で孤立感を深めていくあかりは、唯一の心の支えである真幸の存在にますます依存していきます。この章では、家庭の中で居場所を見失った若者の苦悩がリアルに描かれます。

第4章: 推し活への没頭

あかりは学校や家庭で感じる孤独から逃れるように、推し活にのめり込みます。グッズの収集やSNSでの情報共有、ライブへの参加など、彼女の日常は推しを中心に回ります。しかし、この没頭が彼女自身のアイデンティティを支える一方で、社会との接点をさらに狭めていく様子が描かれます。

第5章: 炎上の影響

真幸の炎上は収まらず、彼の活動にも大きな支障が出てきます。これにより、あかりの精神状態も不安定になります。推しの苦境に共感しながらも、現実の自分との向き合いを迫られる場面が増え、彼女の葛藤が一層深まります。

第6章: 自己の見つめ直し

あかりは推し活に完全に依存していた自分に気づき始めます。そして、自分の存在意義や生きる理由について考え直します。この章では、推しという存在を超えて、あかり自身の人生の意味を模索する姿が描かれます。

第7章: 新たな一歩

炎上事件を経て、あかりは少しずつ推し活から距離を置き、学校生活や家庭との関係の修復を試みます。友人との交流を増やし、家族との会話も試みることで、現実の世界での新たな居場所を見つけようとします。

第8章: 自立への道

あかりは、推しの存在に頼り切る生活から少しずつ脱却し、自分自身の力で人生を切り開くための行動を始めます。新しい趣味や目標を見つけることで、自立への道を歩み始める様子が描かれます。

第9章: 未来への希望

あかりは、過去の自分を受け入れ、未来に向けて新たな一歩を踏み出します。推し活で得た経験を糧に、自分自身の生き方を見つけていく姿が印象的に描かれています。

全体を通して

『推し、燃ゆ』は、推し活を通じた自己発見や現代社会の孤独感をテーマにした、深い感動を与える小説です。若者特有の葛藤や依存がリアルに描かれ、多くの読者に共感を呼びます。また、宇佐見りんの描写力は非常に繊細で、心理描写の奥深さが際立っています。現代社会の一側面を切り取った作品として、読む人に多くの気づきと感情の揺さぶりを与える一冊です。